よくある場面
対象区域の用地買収を進めていて、ほぼ全ての地権者と話がついている。ところが、一画だけ登記名義人がすでに死亡していて、戸籍を辿っても相続人の所在が追えない。あるいは相続人が多数に分かれ、その一部と連絡が取れない。事業全体は止まっているわけではないが、その一画のせいで全体計画が確定できず、着工・分譲・許認可の各局面で支障が出る——開発事業に関わる方であれば珍しくない場面だと思います。
従来この種の案件は、不在者財産管理人の選任(民法25条)か、最終的には収用手続を視野に入れて時間と費用を投下するか、対象地を回避して計画を縮小するかという選択肢しかありませんでした。
所有者不明土地管理人で動かす
令和5年4月に施行された所有者不明土地管理人の制度は、こうした場面のために設計されたといってよい制度です。利害関係人(事業計画を有する開発事業者を含みうる)が地方裁判所に管理人選任を申し立て、選任された管理人を相手方として用地取得を進める。管理人は裁判所の許可を得たうえで対象土地を売却できるため、所有者不明であっても法的に瑕疵のない取引が成立します。
既存の不在者財産管理人と比べた利点は明確です。対象を特定の土地に限定できるため手続が軽い、予納金水準も相対的に低い、そして管理人の業務範囲が明確で売却完了までのスケジュールが立てやすい。
事業計画への組み込み方
① 早期着手
申立てから売却完了まで通常半年〜1年を要するため、用地買収のタイムラインに対して早めに着手しないと、着工時期や分譲計画にずれが生じます。事業計画策定の段階で「所有者不明土地が混在しうる」という前提を置き、必要なバッファを確保しておくのが実務的です。
② 所有者調査の質
申立てが認められるためには、合理的な調査を尽くしたことの疎明が必要です。登記名義人の住民票・戸籍除票の取得、相続人の追跡、現地調査、郵便送達の試行——こうした調査を計画的・記録的に行い、報告書として整える作業が申立ての基盤になります。調査が薄いと申立て自体が通らないことがあります。
③ 利害関係人としての疎明
開発事業者が「利害関係人」に該当することは事案ごとの判断になります。具体的な事業計画書、開発予定区域の図面、対象地が事業に必要不可欠であることの説明、既に他の地権者と進めている取引の状況——こうした資料で、形式的な利害関係ではなく実質的な利害関係を示す必要があります。
④ 管理人との協議体制
管理人は裁判所が選任する第三者で、所有者の利益も保護する立場で行動します。価格交渉、引渡条件、許可申立てのタイミングなどは管理人と協議して進めることになるため、申立人側だけで全てが決められるわけではない点を理解しておく必要があります。