行政施策のなかで使う制度
自治体が直面する所有者不明土地は、空き家対策、特定空家への対応、道路拡幅、河川・水路整備、公共用地の取得、固定資産税の賦課・徴収など、さまざまな施策の局面で問題化します。空家等対策特別措置法による行政代執行は強力な手段ですが、費用回収と土地そのものの最終的な処理という点では限界があり、結局のところ「不良資産」として残るケースが少なくないと思います。
令和5年4月に施行された所有者不明土地管理人の制度は、こうした場面で民事手続の枠組みで土地の管理・処分まで実施できる選択肢を提供しています。
日野市の事例(都内自治体初)
東京都日野市は、都内自治体として初めて所有者不明土地管理人制度を活用した事例として知られています。長期間放置されていた空き家について、令和5年6月に申立て、同年10月に管理人選任、令和6年3月に新所有者への売却完了——申立てから売却完了まで約9か月で進行しました。新所有者が建物を解体・新築し、近隣の住環境が改善されています。
本事例の重要な含意は、制度活用が自治体施策として現実的なオプションになるという点です。空き家対策と土地の最終処理を同じ手続のなかで完結させ、施策コストの回収可能性も確保できる仕組みは、行政的に極めて意義が大きいといえます。
自治体活用の論点
自治体が本制度を使う際の論点は、民間の利用とは異なる側面があります。
利害関係人としての疎明は、行政上の具体的な利害(空家対策計画上の対象であること、道路認定区域に含まれていること、公共用地取得計画の対象であること等)を示すことで足ります。民間と異なり、計画の公的な性格が利害関係を裏付ける材料になります。
予納金は申立人が納付するのが原則ですが、業務完了後に剰余があれば返還されるため、最終的な財政負担は管理人報酬と諸経費の範囲に収まることが多いと思います。事案によっては、売却代金からの管理人報酬充当により、実質的に申立人側の費用負担が抑えられるケースもあります。
行政内部の手続としては、所有者調査の経緯記録、申立てに関する起案、議会報告、契約事務との関係整理など、複数の課にまたがる調整が必要になります。早い段階で弁護士と相談しながら、内部手続と申立て準備を並行で進めるのが効率的です。