所在不明者が一人いるだけで、決議の計算が変わる
老朽化したマンションの建替えや敷地売却を進めるには、誰が区分所有者で、どれだけ議決権を持っているかを確定させなければなりません。相続登記がされないまま名義人が亡くなっている。登記上の住所へ通知しても戻ってくる。海外へ転居した後の連絡先が分からない。こうした住戸が残ると、決議に必要な賛成割合の計算そのものが難しくなります。
実務的に頻発する場面は、相続が発生したまま登記が放置されているケース、相続人が多数に分かれていて一部の所在が追えないケース、外国籍や海外居住の区分所有者で連絡が取れないケースなどです。築30年以上のマンションでは、こうした問題が複数の住戸にまたがることも珍しくありません。
2026年4月から、決議の母数から除外できるようになった
令和7年法律第47号による改正区分所有法は、2026年(令和8年)4月1日に施行されました。区分所有者を知ることができない、または所在を知ることができないときは、他の区分所有者や管理者などが地方裁判所へ申し立て、所在等不明区分所有者を集会決議の母数から除外する裁判を求められます(区分所有法38条の2)。
除外は管理組合の判断だけではできません。登記、戸籍、住民票など通常確認できる公的記録を調べ、専有部分の利用状況も確認したうえで、なお所在が分からないことを裁判所へ示します。裁判所の除外決定を得た後は、その区分所有者と議決権を母数に入れず、残る区分所有者で決議割合を計算できます。
ただし、除外決定は決議までの手続
ここは区別が必要です。除外決定によって建替え等の決議を成立させやすくなっても、所在不明者の専有部分が自動的に売却されたり、権利が消えたりするわけではありません。決議後にその専有部分をどう管理し、建替え事業の中でどう処理するかは、別の手続として検討します。
改正法では、所有者不明専有部分管理命令も新設されました(区分所有法46条の2以下)。利害関係人の申立てにより裁判所が管理人を選任し、その管理人が専有部分や敷地利用権などを管理します。処分には裁判所の許可が必要です。購入希望者も、専有部分を取得してより適切に管理しようとする具体的な関係があれば、利害関係人になり得ることが東京地方裁判所の案内でも示されています。
従来の不在者財産管理人や相続財産清算人が必要になる場面も残ります。所在不明者が生存しているのか、死亡して相続問題になっているのか。対象が専有部分なのか、敷地の共有持分なのか。決議を成立させたいのか、専有部分を管理・取得したいのか。目的と対象を確認してから手続を決めます。
調査は、決議の直前では遅い
建替え案件で所有者不明問題が判明した場合の進め方は、おおむね次のような順序になります。
まず、登記簿・住民票・戸籍の調査により、対象区分所有者の特定と所在確認を試みます。相続が発生している場合は、相続人の追跡を行います。この調査は、後の管理人選任申立てや改正法上の所在不明認定の前提になります。探したが見つからなかったという結論だけでは足りないので、いつ何を調べて何が分かったのかを、資料と対応させて残しながら進めます。
次に、調査結果に基づき、対応の枠組みを選定します。不在者財産管理人(民法25条)、相続財産清算人、改正区分所有法上の所在不明区分所有者の取扱い、敷地側で所有者不明土地管理人が関係する場面——どれを使うか、あるいは併用するかは、事案の性質、決議のタイミング、コスト、確実性のバランスで判断します。
選定した枠組みに沿って、申立てと決議準備を並行で進めます。除外決定を使う場合も、所有者不明専有部分管理命令を使う場合も、探索の記録が出発点です。決議の日程が決まってから調査を始めるのではなく、名簿と登記の不一致が見つかった時点で着手する方が、事業日程を組みやすくなります。
公的資料
制度の条文と申立書式は、法務省、e-Gov法令検索、東京地方裁判所の資料で確認できます。
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」
- 東京地方裁判所「共有に関する事件、土地等の管理に関する事件」