問題の所在
老朽化したマンションの建替えや敷地売却を進めるにあたって、区分所有者全員の所在確認は決議手続の前提になります。区分所有法は建替え決議について5分の4以上の多数決を要求しており、敷地売却決議も同様です。区分所有者数が分母になる以上、所在不明の区分所有者がいる場合、その取り扱いを誤ると決議自体の効力が問題化します。
実務的に頻発する場面は、相続が発生したまま登記が放置されているケース、相続人が多数に分かれていて一部の所在が追えないケース、外国籍や海外居住の区分所有者で連絡が取れないケースなどです。築30年以上のマンションでは、こうした問題が複数の住戸にまたがることも珍しくありません。
区分所有建物では、建物管理人をそのまま使えない
令和3年改正民法では、所有者不明土地管理人(民法264条の2)と並んで、所有者不明建物管理人(民法264条の8)の制度も創設されました。ただし、マンションのような区分所有建物については注意が必要です。区分所有建物には所有者不明建物管理制度が適用されないため、専有部分について建物管理人を選任し、その管理人を相手に当然に建替え手続を進められる、という整理はできません。
そのため、所在不明区分所有者がいる案件では、不在者財産管理人(民法25条)、相続財産清算人、遺産分割や相続登記の整理、改正区分所有法上の所在不明区分所有者の取扱いを組み合わせて検討します。敷地が共有状態になっている場合や、敷地利用権と専有部分の関係が問題になる場合には、所有者不明土地管理人の制度が関係する余地もありますが、専有部分そのものを処理する制度とは分けて考える必要があります。
建替え案件では、制度名だけで判断すると危険です。対象が土地なのか、専有部分なのか、共有持分なのか、所在不明者が生存しているのか、死亡して相続関係の問題になっているのかを分けた上で、どの手続を使うかを決めます。不在者財産管理人との使い分けについてはこちらの記事でも整理しています。
令和6年改正区分所有法の影響
令和6年に改正された区分所有法は、老朽化マンションの建替え・敷地売却・取壊しを進めやすくするために、複数の制度的手当てを盛り込んでいます。決議要件の緩和、所在不明区分所有者の決議における取扱い、管理不全区分所有者への対応など、改正の柱は実務に大きな影響を与えるものです。
所在不明の区分所有者がいる場合に、その者を分母から除いて決議要件を満たせるようにする規律が設けられた点は、特に建替え案件で意義が大きいといえます。もっとも、所在不明であることの認定要件、公告手続、利害関係の整理など、運用上の論点は今後の蓄積を待つ部分が多くあります。
民法上の所有者不明土地・建物管理人制度と、改正区分所有法上の所在不明区分所有者の取扱いは、目的・効果・手続が異なります。事案の性質に応じて、どちらの枠組みが適切か、あるいは併用すべきかを判断する必要があります。
実務の進め方
建替え案件で所有者不明問題が判明した場合の進め方は、おおむね次のような順序になります。
まず、登記簿・住民票・戸籍の調査により、対象区分所有者の特定と所在確認を試みます。相続が発生している場合は、相続人の追跡を行います。この調査は、後の管理人選任申立てや改正法上の所在不明認定の前提になるため、記録性のある形で進めることが重要です。
次に、調査結果に基づき、対応の枠組みを選定します。不在者財産管理人(民法25条)、相続財産清算人、改正区分所有法上の所在不明区分所有者の取扱い、敷地側で所有者不明土地管理人が関係する場面——どれを使うか、あるいは併用するかは、事案の性質、決議のタイミング、コスト、確実性のバランスで判断します。
選定した枠組みに沿って、申立て・公告・決議準備を並行で進めます。建替え組合の設立段階から弁護士が関与することで、後の決議手続でつまずくリスクを大幅に下げることができます。