相続と所有者不明土地が重なるとき
遺産分割で不動産を取得した場合、それを売却して現金化する必要が生じることがあります。代償分割で他の相続人に代償金を支払う場合はなおさらです。ところが、いざ売却を進めようとしたら、隣地の所有者が分からず境界確定ができない。こうした状況は、相続実務の中で実際に起こりえます。
相続登記義務化(令和6年4月施行)により、新たな所有者不明土地の発生は抑制される方向にあります。しかし、義務化前に既に未登記のまま放置されていた土地は膨大に存在しており、隣地の名義人が何十年も前に亡くなったまま相続登記がされていないケースは珍しくありません。
なぜ問題になるか
不動産の売却にあたって買主側が確定測量を求める場合、隣地所有者の立ち会いと境界の確認が不可欠です。隣地の所有者が不明であれば、測量士が作業を進めることができず、売却そのものがストップします。
代償金の支払期限が迫っている場合、売却の遅延は直接的な資金問題に発展します。また、仲介業者との媒介契約の締結にも支障が出る場合があります。境界が未確定の状態では、買い手の融資審査が通らないことも少なくありません。
所有者不明土地管理人制度で解決する
この場面では、所有者不明土地管理人の選任申立て(民法264条の2)が有効です。
隣地の所有者が不明であるという問題に対して、裁判所が管理人を選任し、その管理人を相手方として境界確定を進めることができます。管理人は保存行為の範囲内で境界確認の立ち会いを行う権限を有しており、必要に応じて裁判所から権限外行為の許可を得ることもできます。
申立てができるのは「利害関係人」です。隣地の所有者である相続人は、まさに利害関係人に該当します。
相続案件特有のスケジュール上の注意点
相続が絡む案件では、時間的な制約が通常の案件以上に重要になります。
代償金の支払期限。遺産分割協議で代償金の支払期日が定められている場合、売却が遅れればその期限に間に合わない可能性があります。管理人選任の申立てから境界確定の完了まで半年程度を見込む必要があるため、問題が判明した段階で即座に着手すべきです。
相続税の納付期限。相続税の申告・納付期限は被相続人の死亡を知った日から10か月です。不動産の売却代金を納税資金に充てる場合、管理人選任の手続に要する期間を計算に入れておく必要があります。
遺産分割協議との関係。遺産分割協議が成立する前の段階で、対象不動産の隣地に所有者不明の問題があることが判明する場合もあります。この場合は、遺産分割の方針と並行して管理人選任の準備を進めておくと、分割成立後に速やかに売却に移行できます。
不動産仲介業者との連携
仲介業者にとっても、所有者不明土地管理人の制度を知っておくことは実務的に重要です。相続物件の売却案件を受ける際に、隣地の所有者が不明という問題が発覚することがあります。この場合、「制度を使えば境界確定が可能」という選択肢を売主に提示できるかどうかで、案件が動くか止まるかが変わります。
管理人選任の手続は弁護士に依頼する領域ですが、仲介業者が問題の存在に気づいた段階で弁護士への相談を促すことで、売却スケジュール全体の遅延を最小化できます。
事案を匿名化して掲載しています。