相談の経緯
依頼者は、遺産分割により都内の不動産(土地・建物)を取得しました。遺産分割協議の結果、他の相続人に対して代償金を支払う義務があり、そのための資金を確保するため、取得した不動産を売却する必要がありました。不動産仲介業者との間で売却の話を進めていたところ、隣接地の所有者が不明であるという問題に行き当たりました。
隣地の登記簿を確認すると、名義人は既に亡くなっており、相続登記がされていない。戸籍や住民票の調査を進めましたが、現在の所有者を特定することができませんでした。
境界確定には隣地所有者の立ち会いが必要です。所有者が分からなければ、確定測量図の作成ができず、不動産仲介業者との正式な媒介契約の締結にも支障が出る。売却手続が事実上ストップしてしまいました。
所有者不明土地管理人の選任申立て
依頼者は隣地の所有者であり、「利害関係人」(民法264条の2第1項)として所有者不明土地管理人の選任を申し立てる資格があります。
申立てにあたり、まず所有者の調査を行いました。登記名義人の住民票の除票、戸籍謄本、相続人の戸籍の附票などを取得し、合理的な調査を尽くしても所有者を特定できなかったことを疎明する報告書を作成しました。併せて、現地調査の写真や、対象土地の位置関係を示す図面等を準備しています。
地方裁判所に申立書を提出し、裁判所が審理の上、管理命令を発令しました。管理人として弁護士が選任され、以後、この管理人を相手方として手続を進めることができるようになりました。
権限外行為の許可
管理人が選任された後、次に必要だったのは境界確認への立ち会いと確定測量図への承諾です。これは管理人の通常の権限(保存行為・性質を変えない範囲の利用改良行為)に含まれるかどうかの判断が必要ですが、本件では裁判所に権限外行為の許可を申し立て、許可決定を得ています。
さらに、売却にあたっては隣地との間で通行・掘削に関する承諾も必要でした。この点についても、管理人が裁判所の許可を得た上で承諾書を取り交わすことができました。
解決
管理人との間で境界確認が完了し、確定測量図が作成されたことで、不動産の売却手続を進めることが可能になりました。
手続の目的を達成した後は、管理命令の取消しを裁判所に申し立て、管理人の報酬決定を経て手続は終了しました。
この事例のポイント
本件は、不動産の売却という明確な目的のために管理人制度を利用した事案です。実務上のポイントをいくつか整理します。
所有者調査の準備が重要。申立てが認められるためには、所有者を特定できないことの疎明が必要です。登記名義人の住民票・戸籍を順に辿り、調査の経緯と結果を報告書にまとめる作業が、申立ての基盤になります。
管理人は申立人が選べない。管理人は裁判所が選任する第三者(弁護士等)であり、申立人側から推薦することはできません。管理人は所有者の利益も考慮して行動するため、申立人と管理人は対等な立場で協議を行うことになります。
権限外行為許可が必要な場面がある。境界確認への立ち会いや承諾書の作成が管理人の通常権限に含まれるかは事案によります。疑義がある場合は、裁判所に権限外行為の許可を求めることで手続の安全性を確保できます。
代償金の支払期限など、時間的制約がある場合は早期着手が不可欠。本件では遺産分割に伴う代償金の支払期限があったため、スケジュール管理が重要でした。手続全体にかかる期間を見越して、問題が判明した段階で速やかに動き始めることが、結果的に最も確実な対応になります。
事案を匿名化して掲載しています。