所有者不明土地という「塩漬け」問題
不動産事業に携わっていると、所有者が分からない土地に行き当たることは珍しくありません。隣地の名義人が死亡していて相続登記がない。共有者の一人が行方不明。開発候補地の一角に、誰のものか分からない区画がある。
こうした土地は、従来ほぼ手の打ちようがありませんでした。交渉の相手方がいないのだから、取引も、境界の確認も、管理の改善も進められない。結果として、案件そのものが塩漬けになる。
国土交通省の地籍調査(平成28年度)によれば、登記簿の記載だけでは所有者の所在が確認できない土地は調査対象の約20%に上りました。追跡調査で多くは解消されるものの、最終的に所在不明のまま残る土地は一定数存在し、地方部ではその割合が高い傾向にあります。不動産事業のなかで所有者不明土地に接触する確率は、決して低くありません。
制度で何が変わったか
令和5年4月に施行された所有者不明土地管理人の制度(民法264条の2)は、この状況を変えるために作られたものです。
制度の骨格は単純です。裁判所に申し立てて管理人を選任してもらい、その管理人が土地の管理・処分を行う。管理人を「相手方」として交渉や取引ができるようになるため、所有者不明が原因で止まっていた案件を前に進めることができます。
不動産事業者にとって具体的に意味のある場面を整理すると、次のようになります。
境界確定の相手方がいない場合。売却予定物件の隣地が所有者不明で、境界確定に応じてくれる人がいない。管理人を選任すれば、管理人を相手方として境界確定が進められる。
所有者不明の土地を取得したい場合。管理人は裁判所の許可を得て土地を売却できる。購入者側から見れば、所有者不明の土地を正規の手続で取得できることになる。
開発区域内に所有者不明の区画がある場合。管理人を通じて当該区画を処理することで、事業全体を進めることが可能に。
共有者の一部が不明な場合。不明な共有者の持分について管理人を選任し、残りの共有者と合わせて不動産全体を処分するといった対応が取れる。
従来の制度との違い
以前から不在者財産管理人の制度(民法25条)はありましたが、これは不在者の財産「全般」を管理するための仕組みであり、特定の土地だけを効率的に処理するには不向きでした。
所有者不明土地管理人は、特定の土地に限定して管理人を選任できます。目的が明確で、手続が効率的に進みやすいという利点があります。
実務的な留意点
この制度は施行からまだ数年で、裁判所の運用実績も蓄積途上にあります。申立ての準備として必要な所有者調査の範囲や方法、予納金の水準、管理人選任後の手続の進め方など、事前に確認しておくべき点は少なくありません。
また、申立てから管理人の選任まで数か月、その後の売買等にさらに数か月を要するのが通常です。案件に所有者不明土地が絡みそうだと分かった段階で、早めに弁護士と相談を始めるのが得策です。
制度の存在は知っていても、実際に使ったことがないという事業者の方が大半だと思います。逆に言えば、この制度を使いこなせることは、不動産事業における実務上のアドバンテージになりえます。